大判例

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前橋簡易裁判所 事件番号不詳 判決

〔主文〕

1 被告人を罰金三万円に処する。

2 右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

3 訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

〔理由〕

(罪となるべき事実)

被告人は、自動車運転の業務に従事している者であるが、昭和四二年二月二〇日午後三時三〇分ごろ、大型貨物自動車(タンクローリー。車両の長さ八メートル八〇センチメートル。)を運転して、前橋市住吉町一丁目一三番二六号先国道一七号線(車道の幅員一五メートル)上を時速約二〇キロメートルで北進中、その手前から発見していた真下かのえ(当二四年)が自転車を操縦して前方道路左側を同一方向に進行するのを、その右側から追い抜こうとした。

当時、右真下の前方約二〇メートルの道路左側には普通貨物自動車が駐車しており、一方被告人の前方には信号待ちのため自動車が行列しその最後尾は右駐車車両の右側に並進する位置にあつて、被告人運転の自動車と右真下操縦の自転車がそのままの速度をもつて進めば、右駐車車両の右後部付近において被告人運転の自動車が右真下操縦の自転車の右側を通過するような位置関係にあり、しかも右駐車車両と被告人運転の自動車との間隔は僅か約九〇センチメートルしかなくなるような状況にあつた。

このような場合、自動車運転者としては、進路の前方左右に注意しその安全を確認しながら進行し、ことに右のような状況においては、一般に女性の操縦する自転車はとかく安定を欠き、とりわけ被告人運転の自動車のような巨大な自動車が接近すれば心理的に不安動揺を生ぜしめ走行の安定を失つて不測の行動に出る等の危険のあることが十分に予見されるのであるから、絶えずその動静に注意を払うはもちろん、これとの間に充分な間隔を保つたままその右側を通過するか、時宜によつては一時停止または極力速度を減じて右自転車が右駐車車両の右側を通過し終るのを待つてから進行する等して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、漫然右行列車に追尾すべくしばらく右真下に対する注視を欠いたまま右駐車車両との間に約九〇センチメートルの間隔をおいて進行したため、折柄右駐車車両の右側に差しかかろうとした右真下をして走行の安全を失わせ、被告人において自車左バックミラーによつて右真下がふらついているのを発見して直ちに急ブレーキをかけたときには既にこれとの接触を避ける余裕なく自車左後輪で右自転車後輪をひいて同人を路上に転倒させ、よつて同人に対し左大腿部挫傷の傷害を負わせ、破傷風を併発した同人を同月二六日午後一〇時四〇分同市朝日町三丁目二一番三六号前橋赤十字病院において破傷風により死亡するに至らしめたものである。

(証拠の標日)<省略>

(弁護人の主張に対する判断)

一、被告人運転の自動車と被害者真下かのえの身体あるいはその操縦する自転車との接触の有無について

なるほど、弁護人主張のとおり本件にあらわれた全証拠を検討するも、被害者真下かのえの受傷が検察官主張の衝突または接触の事実を直接の原因行為とするものと認めるのは困難である。すなわち、この点に関する各供述証拠は原供述者である右真下かのえからの伝聞の域を出ないうえ接触部位についての供述内容は各人各様区々にわたりいずれを真実とするか確定できないのみならず、被告人運転の自動車に衝突または接触による擦痕の存したことを認めるに足りる証拠は全くない。また、当公判廷における証人奈良部弘重の供述と同人作成の写真によると、本件事故直後判示駐車車両の後部バンバーの下付近の路上に小量の泥が落ちていたことは認められるが、他方右駐車車両自体に衝突または接触による擦痕があつたことは全く認められないのであつて、右真下が右駐車車両と接触した事実を推認することもできないのである。

しかしながら、当公判廷における被告人の供述に則して証拠を検討すれば、右真下の受傷が検察官主張の衝突または接触を直接の原因行為とするものでないとしても、判示認定のように被告人が注意義務を怠つたことに基因し、それによつて右真下に心理的動揺を与え狼狽した同人をして進退の措置を誤まらしめた結果生じたものと認めることができる。本件事故発生の原因が専ら右真下の行為にもとづくものとする所論は採用できない。

二、被害者真下かのえの死亡との因果関係について

右真下の左大腿部挫傷に破傷風を併発したこと、それによつて同人の死を招いたのが全く偶然的なものでないことは、医師長洋作成の死亡診断書、当公判廷における証人北川道安、鑑定人上原健一の各供述によつて明らかである。したがつて、被告人の加害行為から右真下の死亡の結果が発生することは経験則上一般的にいつて普通に生ずると認められる関係にあるものというべく、右真下の致死の結果について被告人がその責任を免れることはできない。この点に関する弁護人の主張も採用できない。

(法令の適用)<省略>

(昭和四五年四月一四日前橋簡易裁判所)

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